人工股関節全置換術
正常な股関節のしくみ
股関節は体の中で最も体重がかかる関節で、主に2つの部分から成り立っています:骨盤の内部をみると、腿の骨(大腿骨)の先に球状の大腿骨頭部があり、丸みを帯びたソケット(寛骨臼)にちょうどはまるように位置しています。その二つの骨の表面(球状とソケット状の骨)は、関節軟骨とよばれる滑らかで耐久性のある面に守られて動きやすくなっています。
滑膜と呼ばれる、薄くて滑らかな組織が残りの股関節の表面をすべて覆っています。この膜は股関節の潤滑油となる少量の液体を作り出し、股関節の摩擦を最低限に減らすことに役立っています。
関節炎や怪我、または他の理由で医師により股関節の大きな損傷が確認された場合、股関節の機能を修復するため置換術が必要になることがあります。
人工関節には現在、素材やデザインにおいて様々なタイプのものが使われていますが、全て大きく分けて2種類の部品で出来ています:球状とソケット状の部分の2種類です。
特殊な外科手術用のセメントを使い、残りの自分の骨と人工関節の材料の間を埋めて接着します。年齢が若い方や骨が強く活動の多い方にはセメントを使用しない人工関節の材料を使用することが多くなっています。
手術後の合併症の可能性
1. 深部静脈血栓症(DVT)
DVTは下肢や骨盤の静脈に血栓ができる病気で、股関節置換術後に最も発生しやすい合併症です。術後の最初の数週間に起きることが多く、その徴候や症状は次のものが挙げられます。
- 切開部と関係のないふくらはぎと足の痛み
- ふくらはぎの圧痛や発赤
- 太もも、ふくらはぎ、足首や足の腫れ
- 息切れ
- 胸痛(特に呼吸時)
2. 人工股関節全置換術による感染
人工股関節全置換術による感染率は低いです(2%未満)。以下の兆候があるか注意してください
- 持続性の発熱(口での検温方法、100°F(華氏)以上)
- 悪寒
- 傷口の発赤、圧痛、や腫れの悪化・増加
- 傷口からの分泌物
- 股関節のひどい痛み(動作時及び安静時)
3. プロテーゼ(人工移植物)の脱臼
術後3か月間は、プロテーゼの脱臼をおこさないために、以下のとおり注意が必要です
- 足を組まないでください
- 術後、股関節を直角(90度)以上曲げないでくださ
- 手術を受けた足を過度に内転または外転しないでください。
- 寝るときは、外転枕を両脚の間に挟みましょう。脚を組まないように防ぐことができます。
人工股関節を入れてからの生活の注意点
重要なポイント:
- 術後の股関節を動かす際は、痛みや不快感を指標にしましょう。過度の痛みや不快感を引き起こす姿勢は避けてください。
- 歩行後に足がむくんだ場合は、横になって足をあげてください。
- 肘掛け付きのかたい椅子(座ったときに沈み込まないもの)を使用してください。ソファやリクライニングチェアの使用は、控えましょう。
- 術後、股関節を無理に動かさないでください。運動する際は、足をなるべく自然に動かすように行いましょう。
以下の症状が現れた場合、すぐに医師に連絡してください:
- 股関節の傷口または周囲に、発赤、腫れや分泌物がある
- 原因不明の寒気や発熱(華氏100 以上、摂氏38℃以上)が1日以上続く
- 鎮痛剤によって緩和されない激しい股関節の痛み
- 足が短くなったり、不自然に回転する
- 突然の太腿やふくらはぎの腫れ
正しい股関節の姿勢
- 睡眠時、歩行時、または坐る際は、患側の足のつま先を前方に向けてください。
- 術後は、膝を股関節よりも低い位置に保たなければなりません。
- 公共施設内においても、高い便座のついたトイレを使用しましょう。
- 下着やズボンを履くときは、特別な器具(リーチャー、着脱スティック)を使用します。体が前かがみになる姿勢は避けてください。
- 靴下を履く際は、「ソックスエイド」といったサポート器具を用いて、難しい場合は協力を求めましょう
- ゴム底のスリップオンタイプの靴がおすすめです。より簡単に靴を履くことができます。
- ベッドに入る場合は、健側(手術をしていない方)から入りましょう。
- ベッドから出る場合は、患肢側から出てください。
体を横向きにして寝る場合は、両脚の間に外転枕を挟むことが必要です。 - 少なくとも術後3ヶ月間は、睡眠時に外転枕を使用してください。
術後の早期運動 - ベッドでの運動
*以下の運動する際は、必ず両脚の間に外転枕を挟んでください*
術後の中級運動(立位)
術後、立ち上がりの際にめまいを感じることがあります。筋力が回復するにつれて、自立で立つことができるようになります。これらの立位での運動を行う際には、ベッドや壁に設置されている手すりにしっかりつかまりながら行いましょう。
上級運動と活動
完治するまでに数か月かかります。より高度な運動やアクティビティは、股関節の回復に役立ちます。リハビリの状況に合わせながら、理学療法士は運動の指示をしていきます。以下、一般的な運動です:
- セラバンド運動(TheraBand)- 筋力強化のため
- サイクリング - 筋力と股関節の可動域改善
- ウオーキング - 体のバランスが安定するまで、杖をついて歩きましょう。ウオーキングの程度は、筋力と持久力に合わせて、徐々に強度を上げてください。
(情報は全て参考の為に提供されています。ご質問などがある場合は、理学療法士もしくは医師にご連絡ください。)
上記の情報は、カノッサ病院(カリタス)の理学療法部で制作されています。理学療法のご予約は28255392にお電話ください。
References:
- American Academy of Orthopaedic Surgeons (AAOS)
- Hong Kong Orthopaedic Association